あけましておめでとうございます、カサギです。
いよいよ留学生活も最後の年がやってきました。
思えば3年前の2010年5月、このブログを始めた当初「とりあえず卒業までは続けてみよう」と目標を立てていたのですが、もともと文章を書くのは苦手だったので(だから理系を選択したわけですが)、「まあ、1年くらい続けばいいかなー」くらいの裏目標が設定してあったのです。
ですがいざ始めてみると、かなり多くの方からメールやコメントでの質問などを頂き、自分の予想以上にブログを更新するのが楽しくなっていました。
(まあ楽しいんですが、忙しい時は締切をごめんなさいすることもしばしば・・・)
やはり自分の場合、本業のCGもそうですが、「何かを作って」、「それを人に見てもらい」、「そして感想をもらう」と言う一連の過程が楽しいと、どうやら物事が長続きする様な気がします。
自分で言うのもなんですが、自分は同じANM&VFXの中でも、かなり作品(ショット)の「発表数」(実際に作ってそれをFB,Vimeo,YouTube に公開している数)が多い方だと思います。
これまでにVimeoの方に公開している完成ショット(自分がみせても恥ずかしくないと思えるクオリティ)がおよそ20ショット、さらにこのブログだけで公開してきたクラス内で作った実験的ショットや課題などを含めると、50ショット近い作品をこの3年間で作ったことになります。
1学期に4クラス取るわけですから、最低でも4カ月に3作品近くを作っている計算になりますね。
では、なぜ自分がこんなに多く作品を出せたのかと考えると、やはりこのブログでもたびたび触れている「ポートフォリオを意識した作品づくり」と言うのが重要になってくると思います。
自分の作品は学校の課題・もしくは課題を自分なりにアレンジした物がほとんどです。
つまり「ただ宿題をやって出せばいいや」といった姿勢で課題をやるのではなく、「この課題を現場で使えるクオリティに仕上げるにはどうしたらいいか」を毎回考えながら、課題をこなしていった結果、3年の間にこれだけのショットを仕上げることができたと思っています。
さらに、「この位でいいや」と言った妥協を許さないためにも、「この作品は後で人に見せるんだ」と言ったプレッシャーを自分にかけるのも大事だと思います。
クオリティの低い作品を出したら自分も恥ずかしいですし、また友達のクリティークもおのずと厳しい物になります。
逆に言えば、みんなを「あっ」と言わせるショットができれば、周りのみんなが「すごい!(と素直に友達を賞賛できるのがアメリカのいいところ)」とか「どうやってやったの?」と、さらにモチベーションが高まる機会が得られるわけです。
(おそらく自分の場合はこの「あっ」と言わせた時の快感がたまらなくてCGやってる気がしますね(笑))
まあ自分の場合、一度日本の大学をでて働いた後、もう一度アメリカの大学に入りなおした訳ですので、普通の大学生よりもいろんな意味で「危機感」があるのは当然と言われれば当然なんですよね(汗) これで、普通の大学生と同じ事をしていたら、歳を取っている分圧倒的に就職不利に…。
(アメリカは就職の際に年齢を聞くことはまずあり得ませんが、自分の心理的プレッシャーが…)
なんか自分の事ばっかり書いてる気がしないでもないですが(汗)、まあ結論としては、最後の年も気を抜くことなくクオリティの高い作品を作っていきたいという抱負を語ってみました。
さて、話は変わって。
今回は丁度先の学期に取った、ANM 352 Matchmoving クラスの紹介をしたいと思います。
正直、自分の専攻である Effects系とはあまり関係の無いクラスのなのですが、前々から Matchmoving (マッチムービング)に興味があったので思いきって取ってみました。
さて、マッチムービングという言葉を始めて聞いたと言う方も多いと思うので、自分なりにマッチムービングとは何ぞや?と言う事を説明したいと思います。
もの凄く簡単に言ってしまうと「2Dの動画から、3Dのカメラ情報(位置、回転、被写界深度)を復元する作業」になります。
まあ、これだけだと「?」となる方が多いので、今回の課題を使いながら順番に説明していきたいと思います。
まずはこのショット。
なんの変哲もないただの画像です。
ではこの画像の桟橋の上を、Mayaで作った球体を走らせてみましょう?
結果はこんな感じになります。
球体から落ちる影がないので、若干浮いたように見えますが、手前から来た球体は、桟橋の奥に行くにつれてだんだんと小さくなっていきます。
また、その小さくなり方は実際の桟橋の上にある物体(例えば電灯)と同じ大きさを保っています。
これをマッチムービング的には、「パースがあっている」と言います。
言いかえれば、実際にこの写真を取った時と、ほぼ同じ位置にMayaカメラを置いてレンダリングした動画がこの球体になります。
つまり、マッチムービングとはこの「写真を実際に取った時のカメラ状態を復元する作業」と言えます。
実際の手順としては、Mayaに背景として画像をインポート → グリッドもしくはplaneをパースに合わせる → カメラを配置となります。
では、前のショットは静止画だったのに対して、今度は動画(カメラの位置・回転が変化する場合は)どうするのでしょう?
1フレームごとに手作業で、カメラのパースを合わせて行く…と言う事もできなくはないのですが、人間なんとかして楽な方法を探そうとするもので、世の中の天才的な怠けものが発明したのが、マッチムービングソフトとその理論になります。
マッチムービングの詳しい理論はこちらのWikiを見てもらうか、もっと専門的な画像処理の本を読んでもらうとして、以下は簡単なマッチムービングの仕組みを説明します。
Matchmoving (http://en.wikipedia.org/wiki/Match_moving)
動画のマッチムービング(ほとんどの場合マッチムービングと言ったらこちらを指す)は主に、「Tracking」と「Camera Solve」の2つのプロセスに分かれます。
簡単に言えば、Tracking で動画内の特定のポイントの位置を追跡(Tracking)し、そしてトラッキングの完了した複数の点の差異から、カメラを復元する「Camera Solve」を行うだけのプロセスです。
例えば、車の窓から景色を見ていると、遠くの物体はいつまでも視界に残り続けるのに対して、手前の物体はすぐに視界から消えてしまいます。
これは、観測者の視点を中心に考えているためであって、逆に言えば、ある基点をシーンの中心として考えたとき、2つの動かない対象点(正確にはForeground, Middle-ground, Background の三点が必要)が分かっており、かつ動いている観測者から見た対象点の差異が求められれば、そこから観測者の位置と回転(カメラの場合は被写界深度)も逆算できるはずです。
まあ、前回もそうでしたが、自分は理論を理解しておかないと気が済まない「典型的理系アーティスト(笑)」なので、あえて難しく説明しましたが、要は、「動画の中で動かない点さえ何個か見つければ3Dカメラが再現できるよ」と言う事を言いたかっただけです。
では実例を見てみましょう。
よく見るブルーバックの手前に俳優さんが立っているショットです。
おそらくこの後背景を3Dに差し替えるものと思われます。
この場合、カメラは俳優さんの斜め右下から左上に徐々に弧を描くように移動しているのが分かると思います。
まあ、人間には簡単に理解できるカメラワークですが、コンピュータにはそうはいきません。
そこで、先ほどのTracking の理論を使って、背景に写っている白い点(現場でよくつかわれるのは四角い付箋が多いです。簡単に貼ったりはがしたりできるので)をトラッキングしてみます。
トラッキングしている動画が無かったので、代わりに各ソフトごとにトラッキングしている動画があったので載せておきます。
トラッキングの雰囲気だけでも分かってもらえれば幸いです。
そして、トラッキングが終わったマーカーから今度はカメラを復元します。
…と言ってもボタン一つ「Camera Solve」を押すだけで作業終了なので、ここでは動画は割愛します。
まあ、実際うまく再現できるまで何回かトラッキング→カメラソルブ→トラッキング修正のループを繰り返す必要はありますが…。
で、こちらが完成したカメラをMayaに読み込んだ状態。
本当に背景とカメラの動きがマッチしているのかを分かりやすくするために、壁の位置と、俳優さんの乗っているアップルボックスの場所に3Dのオブジェクトを置いてあります。
(白黒のチェック模様の物体がそれ)
カメラの動きに対して、3Dの物体が違和感なく追随しているのが分かるかと思います。
これがマッチムービングの基本であり全てです。あとは、さまざまな動画の状況に対してどうやってそこからカメラを再現するかが重要になってきます。
最後にもう1つマッチムービングのショットをお見せします。
今度は野外での撮影のため、トラッキングマーカーが極端に少ない場合です。
この場合、ちょっと精度は落ちますが、トンネル内の特徴的なシミなどをトラッキングマーカーにすることでカメラを復元しています。
先生曰く、「実際完璧にマーカーがそろっているショットなんて仕事は回ってこない。何かしらの問題点(後日説明します)があるものがほとんどだ」と言っていたので、今回のトンネルショットは比較的楽な分類に入るみたいですね。
まあ、このあたりの詳しい話は次回から徐々に説明していきたいと思います。
それでは、また。
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